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蒙古襲来ののち築かれた「元寇防塁」

この戦いののち再度の元軍の襲来に備えて、博多湾岸約20kmにわたって鎌倉幕府が御家人に命じて築造した石積みのバリアが、当時「石築地(いしついじ)」などと呼ばれ、現在「元寇防塁」として知られているものです。これらは、当時の九州の九か国(筑前国、肥前国、日向国など)が数㎞単位で分担して、湾岸の山塊や丘陵部を除く海浜部に建治2(1276)年のわずか半年で築き上げたといわれており、築造後は各国がその地区の警備にあたりました。また、各国の築造にあたっては御家人の自国の所領の広さに比例して割り当ての距離が決まっていたようです。

防塁の規模は、幅・高さ約2.5~3mですが、石の積み方や土の混ぜ方、石材の種類などは各国(地区)様々で、積み上げ方も決して整然としているとはいえません。これは幕府から命じられた一定の仕様はあったものの、委細は各国に委ねられていたことを示していると考えられます。また、国防にかかわる緊急的な工事のため、時間短縮を図ることも要求されていたことが推測でき、短期間のうちに築造が進んだのでしょう。

元寇防塁分布

今津3km、今宿2.2km、生の松原1.7km、姪浜2km、西新(百道)2.3km、博多3km、箱崎3km、香椎2km、約20kmの範囲に防塁が築かれました。今津は大隅と日向、箱崎は薩摩といったように、九州各国が築造と警備を担いました。

今津地区の防塁は約3mの高さまで石を台形に積み上げていました。全体を石で造る方法と中に砂を入れる方法、大きく2通りの造り方があります。
生の松原地区は肥後が担当していました。長さは1.7km。このうち約50mが復元整備され、露出展示されています。海側に石を積み上げ、後ろは土と砂を突き固めた通路状の造りになっています。石積みの高さは2.5m前後。

蒙古襲来再び!~弘安の役~(1281年)

築造から5年後の弘安4(1281)年夏、ついに元軍の再度の遠征である「弘安の役」が起きました。この際の元をはじめとする南宋および高麗の連合軍の軍勢は、軍船4500艘、兵員14万人といわれていますが、この元寇防塁によって博多湾からの上陸を阻まれました。元軍は7年前に目にした海岸線と大きく異なる景色に驚き、上陸を諦めざるを得なかったことが想像できます。なお、この後両国は攻防を繰り広げますが、長崎県の鷹島付近に集結した元軍を暴風雨が襲い、退却を余儀なくされたことが伝わります。

蒙古襲来が過ぎ去り、元寇防塁はどうなったのか

歴史上、三度目の戦いがなかったことを我々は認識していますが、知る由もない当時の日本では、室町幕府に替わってからも防塁の維持管理や海岸警備が続けられました。ただし、長い年月が過ぎ、防塁の目的が失われた江戸時代には、その石材が福岡藩黒田氏の居城である福岡城の石垣などに使われたようです。

さらに年を経た大正時代には、埋もれてしまった防塁が発掘の対象となり、当時の九州帝国大学医学部の中山平次郎博士が「元寇防塁」と名付けました。また、昭和6(1931)年には福岡市内に点々と残る防塁が、国史跡に指定され現在まで保存されています。一部ではその公開が図られ、西区の今津地区や生の松原地区などでは自由に見学することができ、歴史的景観を今に甦らせています。

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