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奴国最大級の遺跡・須玖遺跡群

須玖遺跡群は、弥生時代中期から後期を中心とした60ほどの遺跡(集落・墓地)の集合体で、春日丘陵北半部から低地にかけての南北約2km、東西約1kmの範囲に展開します。この須玖遺跡群の中で特に注目されるのは、王墓の存在と、青銅器、鉄器、ガラス製品の生産工房が集中する点です。

奴国の王墓は須玖岡本遺跡岡本地区で発見された

王墓は、春日丘陵北端部の須玖岡本遺跡岡本地区で明治32(1899)年に発見されました。鏡等の副葬品の時期から、中国の光武帝から金印を贈られた奴国王より数世代前の王であることがわかっています。

長さ3.3m、幅1.8m、重さ4tの巨石を上に載せた甕棺墓の中には、中国鏡30面前後、青銅武器10本以上、ガラス勾玉等の豪華な副葬品が納められていました。これらの鏡の中に径20cmを超える大型鏡が3面含まれていましたが、このような大型鏡は中国では王侯クラスの墓でしか出土していません。そのため、金印を贈られる以前から奴国王は中国の皇帝に重視されていたと考えられます。

須玖岡本遺跡では、高い確率で副葬品を伴い墓坑の規模が大きな有力集団墓(王族墓)と、副葬品がほとんど伴わず墓坑も小さい、奴国を下支えする大多数の一般成員の墓地も存在します。これらの墳墓の分布状況や規模、副葬品等の内容から、ここでは弥生時代中期の段階で、王を頂点とした明確な身分秩序が形成されたことがうかがえます。

奴国は青銅器の製造によって周辺諸国への影響力を強めていた

青銅器工房に関して、近年、須玖タカウタ遺跡において青銅器生産開始期の竪穴建物跡から、多種多様な石製・土製の青銅器鋳型が発見されたことが全国的に注目されました。

須玖遺跡群では、須玖タカウタ遺跡以降、丘陵上の集落遺跡で青銅器等の生産が行われるようになります。さらに弥生時代後期になると丘陵上に点在していた工房は、徐々に春日丘陵北部の低地に集約され、須玖岡本遺跡坂本地区、須玖永田A遺跡や須玖黒田遺跡等を中心に工房が営まれます。特に、須玖岡本遺跡坂本地区で確認された青銅器工房跡は、約3000㎡の範囲に広がる弥生時代最大の青銅器工房として注目されています。

奴国の官営工房ともいえる青銅器工房

奴国の王都とも称される須玖遺跡群において、もっとも枢要な位置に青銅器工房が整然と立ち並ぶさまが想定され、王が直轄する奴国の官営工房ともいわれています。また、ここでは青銅器以外にガラス製品の生産も行っており、近接する須玖五反田遺跡からはガラス工房跡も見つかっています。
当地で製作された製品は、奴国内での消費に止まらず、特に銅矛などは対馬や中国・四国地方、遠く朝鮮半島まで運ばれたと考えられます。奴国は、当時の社会において重視された青銅器等の製造を中心的に行うことで周辺諸国や同盟国に対して強い影響力を維持していた可能性があります。

奴国は古墳時代には都市形成が行われていた

弥生時代中期以降、奴国の中心として繁栄を続けた須玖遺跡群ですが古墳時代になると、集落規模が大きく減少します。それに対して、須玖遺跡群の北方約5kmに位置する福岡市の比恵・那珂遺跡群が興隆します。注目したいのは、弥生時代中期後半から造られ始めた道路が延伸し、古墳時代前期にかけて南北方向、約1.5㎞にわたって造られたことです。この道路に沿って、首長層の居館と推定される大規模方形区画、運河、1か所に集中する倉庫群や、最古級の前方後円墳である那珂八幡古墳等の墳墓群が配置されました。これらのことから、政治中枢の移動に伴って、ある程度計画的な都市形成が行われたと考えられます。

奴国の貴重な遺物に出会える! 春日市の文化財

春日市内から出土した貴重な遺物の多くは、春日市奴国の丘歴史資料館で実際に見ることができます。また、須玖岡本遺跡の一部は歴史公園として整備されており、甕棺墓を発掘した時の状態で見学できる覆屋や移設した奴国王墓の上石を展示しています。

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須玖岡本遺跡

弥生時代の代表的な遺跡として全国的に知られています。奴国の王墓や日本最大規模の青銅器工房跡が発見されました。遺跡は昭和61(1986)年に国の史跡となっています。

赤井手遺跡・古墳

弥生時代から歴史時代にかけての遺跡。国内最古級の鉄器工房跡が発見されています。現在、6世紀の円墳1基を現地で見ることができます。

日拝塚古墳

6世紀の前方後円墳。周りに造られた溝を含めると規模は全長60mにも及びます。石室内を見学することができます。※見学は事前予約制

大土居水城跡・天神山水城跡

7世紀に唐・新羅軍の侵略に対する大宰府防衛線として築かれた土塁。大土居水城跡では巨大な木樋が発見されました。

ウトグチ瓦窯展示館

7世紀後半の瓦窯が2基発掘され、展示館で1号窯を調査当時の状態で保存、展示しています。

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