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筑紫次郎を食い止める! 筑後川四大堰の建設

17世紀後半から18世紀にかけ、流域住民は筑後川の水を利用して新田開発を行い、暮らしを豊かにしようと考え、筑後川四大堰を相次いで建設しました。現在も稼働している山田堰大石堰、昭和29(1954)年に完成した夜明ダムによって水没した袋野(ふくろの)堰、そして5人の庄屋によって造られた恵利(えり)堰です(床島堰、佐田堰と合わせて床島堰と総称することもある)。

筑紫次郎の四大堰「恵里堰」の建設

宝永7(1710)年、鏡村の庄屋であった高山六右衛門、八重亀村の秋山新左衛門、高島村の鹿毛甚右衛門、稲数村の中垣清右衛門ら4人は、川幅や流れの速さなどの測量を行い、恵利堰工事の請願書を久留米藩に提出しました。
当時の藩主有馬則維(のりふさ)は直ちに着工するよう命じ、総監督として草野又六を送ったものの、上流の福岡藩の猛反発により計画は立ち消えとなってしまいます。
ところが、堰の建設で利益を得ないにもかかわらず、早田村の庄屋丸林善左衛門が公益のためと3か月にも及ぶ監禁、拷問の末、福岡藩の住民の説得に成功し、正徳2(1712)年、ついに恵利堰は完成しました。

彼らの行動は、現在に至るまで地域の農業に多大な恩恵を与え、地元小学校では校歌に「五庄屋」が歌われているほどです。そのほかの3堰にも地元の庄屋が深く関わっており、筑後川四大堰は全国でも稀な庄屋主導で行われた利水事業なのです。

筑紫次郎の下流、南筑平野の利水事業

一方、下流域に広がる南筑平野も干ばつと洪水を繰り返す貧しい地域でした。このエリアで行われた利水事業は、灌漑用水路と排水路の堀、通称クリークを網の目状に形成したものです。これは「もたせ」と呼ばれる水制御の仕組み、すなわち洪水時に上流から下流に流れる水を空間的に分散させる機能と、有明海の干満差を利用して満潮時に逆流した海水の上に乗っている淡水を農地へ引用するアオ(淡水)取水を可能にした画期的なものです。

クリークは久留米市西部、三潴(みずま)郡、大川市、柳川市、筑後市などで今も多く見られます。

筑紫次郎は今や多くの住民を支える存在に

昭和40年代になると、福岡都市圏の人口増加や都市の拡大により、水道用水として福岡への導水が決まりました。昭和58(1983)年に導水路が完成し通水が開始されてから、筑後川の水は福岡市、大野城市、春日市、古賀市、糸島市、そして遠くは宗像市まで送水されています。福岡都市圏は水道用水の約3分の1をこの福岡導水に依存しており、筑後川は流域内外を問わず多くの住民を支えているまさに命の源なのです。

筑後川流域図

筑後川流域図

筑後川水系治水基本計画によってダム、放水路、堤防といった治水整備が行われました。流域には多くのダムが建設され、小規模ながら水力発電所も設けられています。四大堰のうち袋野堰はダムに沈んでいますが、昭和59(1984)年には筑後大堰が完成しました。

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