目次
大和郡山で金魚はいつどのように庶民の生活に広まった?
文亀2(1502)年に日本へ持ち込まれたとされる金魚は、江戸期に入ると支配階級や富裕層の一部で観賞用に飼育されました。元禄年間(1688~1704年)には、庶民の日常生活に金魚が取り込まれるようになり、金魚売りの声や縁日の金魚すくいが夏の風物詩となります。
そのような時代を経て、郡山藩初代藩主となった柳沢吉里でしたが、藩の主財源である年貢米は干害や風水害の影響で収穫が悪い状態が10年ほど続き、対策を迫られることになりました。
そこで3代藩主柳沢保光の頃に、困窮する武士の生活を救う内職の手立てとして、金魚の飼育が奨励されました。
大和郡山で金魚の飼育はどのように盛んになったのか
その後の藩主たちも、金魚の飼育を奨励し、援助に尽力します。こうした歴史的背景に加え、この地域には水質や水利のよい農業用ため池が多くあり、ため池に発生するミジンコ類が金魚の稚魚のえさに適しているという有利な環境が備わっていたのも幸いしたようです。
江戸末期、藩士たちは飼育した金魚を、仲買人を介して行商人に託し、全国的な販売に乗り出した結果、郡山金魚の評判は次第に高まっていきます。明治維新を迎えると、金魚の飼育は旧藩士の副業から本業に。周囲の農家にも技術を伝授しながら養殖を勧め、集団養殖場も設けられて、大量生産の基礎固めが進んでいったのです。
大和郡山は金魚のブランド化を進める
大和郡山金魚のブランド価値を高めようと、さまざまな人々が努力を積み重ねた結果、金魚の色合いや模様、姿形が優れているとの評価が揺るぎないものになっていきました。
戦前の昭和11(1936)年の農林省統計によれば、奈良県の金魚の養殖場数と売上金額がともに全国総合の過半数を占めるまでに成長しています。戦時中は食糧増産のために養殖は禁じられましたが、戦後は再び復活し、外貨獲得の一助として脚光を浴び、アメリカ、オーストラリアをはじめ、海外諸国にも輸出されました。
大和郡山は金魚の全国有数の生産地となった
金魚の販売数量において奈良県は、おもな産出県のうち、2位の愛知県(1300万尾)を大きく上回る7500万尾(2016年度 奈良県調べ)を誇るまでに至る。このうちの約5700万尾が大和郡山の金魚。奈良県の販売数の4分の3 以上を占めているのだからすごいことです。
およそ300年にわたって大和郡山の人々が代々取り組んできた金魚養殖活動の歴史を知れば、今も町中に金魚があふれ愛育されているのがうなずけるでしょう。
大和郡山の金魚のミュージアムでは日本中の金魚が飼育されている
近鉄郡山駅から徒歩で約15分のところにある郡山金魚資料館へ足を運ぶと、日本中の多種多様な金魚が水槽に入れられて、泳ぐ図鑑のように展示されています。
なかでも、オランダシシガシラという種は、「郡山金魚の代表的存在」として優美な姿を見せてくれます。江戸末期に当地の金魚商が広島から形の美しいシシガシラを購入して持ち帰り、飼育に成功してオランダシシガシラと名付けたところ、有名になったといわれています。
大和郡山では金魚にまつわる祭りが多く開催されている
また、この地では金魚に関するさまざまなイベントも毎年開催します。4月の「大和郡山お城まつり」では金魚品評会でにぎわい、8月には「全国金魚すくい選手権大会」で熱戦が繰り広げられます。冬期を除いて毎週水曜に開かれる競売会(せり市)は愛好家たちが集う場となっています。
『奈良のトリセツ』好評発売中!
奈良県の地形や地質、歴史、文化、産業など多彩な特徴と魅力を、地図を読み解きながら紹介するマップエンターテインメント。奈良県の知っているようで知られていない意外な素顔に迫ります。思わず地図を片手に、行って確かめてみたくなる情報を満載!
見どころ―目次より抜粋
Part.1 地図、地形で読み解く奈良の大地
・実は人工的に作られた山だった? 古代史の舞台・大和三山
・人々の営みに密接してきた 生駒山がもたらした恩恵とは?
・大和平野を潤す大動脈 吉野川分水は300年越しに完成 ほか
Part.2 奈良を駆ける交通網
・生駒市と東大阪市にまたがる 暗峠の急勾配は法令地オーバー
・営業期間わずか9年間! 大仏鉄道を阻んだ急勾配
・3度の変更の末、駅開業が転がりこんだ!?なぜ、王寺町が鉄道の町になった? ほか
Part.3 奈良で動いた歴史の瞬間
・古墳の密集地帯・奈良盆地 なぜ古墳が造られなくなった?
・大化の改新だけではない! 中大兄皇子が変えた時間の概念
・秀吉が催した5000人規模の大宴会 吉野の花見で笑いをとった伊達政宗 ほか
Part.4 奈良で生まれた産業や文化
・全国で2校の国立女子大学 奈良女子大学設立の背景には岡倉天心
・古くから言い伝えがあった 天川村と手塚治虫作『火の鳥』の関係は?
・実は奈良盆地の気候が肝! 広陵町が靴下生産量日本一の理由 ほか
<コラム>
データで分かる全39市町村 人口、農業・水産業、観光
吉田初三郎が描いた奈良の鳥瞰図
映画・ドラマ・小説…… 奈良県とエンタメ作品
『奈良のトリセツ』を購入するならこちら
※掲載の情報は取材時点のものです。お出かけの際は事前に最新の情報をご確認ください。
まっぷるトラベルガイド編集部は、旅やおでかけが大好きな人間が集まっています。
皆様に旅やおでかけの楽しさ、その土地ならではの魅力をお伝えすることを目標に、スタッフ自らの体験や、旅のプロ・専門家への取材をもとにしたおすすめスポットや旅行プラン、旅行の予備知識など信頼できる情報を発信してまいります!