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吉野杉の質の良さの秘密とは

そして木材としての優れた特徴を生み出しているのが、この地域で何百年もの間受け継がれてきた、植林や手入れの方法なのです。植林時には、苗木を1万haあたり1万本前後植えるのですが、これは一般的な植林のおよそ3倍の密度。木が育つにつれ何度も間引き(植林した木の一部を抜く作業)を行います。苗木を植えてから30年で1万本を3000本程度にするといわれます。その後も定期的に間引きを繰り返しますが、まず密集させて植えることで、木の太さを均一化しやすくなってまっすぐ伸びます。森林の密度を丹念に調整していくことで、年輪は細かく均一になります。長い年月と膨大な作業が、吉野杉の木材としての質の良さを生み出しているのです。

吉野杉は城や神社仏閣の建築材にも使われた

吉野川流域でいつ頃から植林が始まったかについては諸説ありますが、1500年頃には造林が行われていたという記録があります。天正年間(1573~1592年)には豊臣秀吉が当地を領有して、大坂城や伏見城をはじめとした畿内の城郭や神社仏閣に吉野の木材が用いられるようになりました。その後、徳川幕府の直領となってからも林業は地域住民の生業として深く定着していったのです。

吉野杉は酒樽の素材にも好まれた

元禄年間(1688~1704年)の前後になると、当時は木材生産の利益が低かったために、住民は村外の商業資本に頼らざるを得なくなり、土地の所有権と使用収益権を分離させました。この地域独特の「借地林業制度」です。

また、享保年間(1716~1736年)には、節が少なく、年輪が細かくてまっすぐな木材の特徴が、水が漏れにくい酒樽を作るための材料(樽丸)に適していることから、「樽丸林業」が盛んとなります。この時代、伊丹や灘など上方の上質な酒は吉野杉の酒樽に詰められて江戸へ海上運送され、酒に杉の香りがつくことで人気が高まり、酒樽は吉野杉が最上とされたようです。

良質の木材を育成する栽培法が普及

1850年代に入ると、川上村の山林地主の家に生まれた土倉(どぐら)庄三郎が16歳で家業を継ぎ、林業の発展に貢献しました。苗木を密集させて植え、ていねいに育成して良質の木材を生産する方法を体系化した「土倉式造林法」が全国に普及。木材運搬のための道路や河川の整備にも努めて、のちに「造林王」と呼ばれるようになりました。

吉野杉は今もていねいに育てられている

吉野川流域の林業地区では、今も「土倉式造林法」が受け継がれていますが、借地林業制度に伴って発達した「山守制度」も続いています。この制度は山の所有者と管理者(山守)を分ける管理制度で、所有者に代わって山守が木を育成。山守は手入れ費と伐採費を受け取れるので、木の育成に手間ひまを惜しみません。

こうして木は丹念に育てられ、良質な木材が作られ続けるのです。

吉野林業の家づくり

吉野林業で産出される木材は年輪幅が細かく均一で密度が高いため、一般的な杉材や檜材に比べて強くてたわみにくいといわれます。そのため、住宅建材として重宝されます。また、まっすぐに成長しているので木目が直線で美しく、他地域のものより赤みが混じった上品な色合いから、見た目のうえでも良質とされる木材です。

また、吉野材の良さをより広く知ってもらおうと、地元の建設会社や工務店は顧客に対して、製材所見学や森林ツアーを実施。伐採する予定の山で自分の家に使う木を選べるサービスなども提供しているようです。

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<コラム>
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