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奈良県は府県統合で大阪府の支配下に
ところが明治9(1876)年になると、各府県の財政難を解消するため、政府は統合75府県を3府35県に再編しました。奈良県は同年4月、太政官布告により堺県(現在の大阪府堺市)に合併され、大和全域を管轄していた奈良県は地図から姿を消してしまいました。さらにその5年後の明治14(1881)年2月には、堺県が大阪府に合併されると、奈良県は自動的に大阪府の支配下になりました。
堺県が大阪府と合併すると各地域が抱える課題の違いから不公平が生じました。府の地方税の支出が旧摂津・河内・和泉の河川や港湾の改修に多くあてられ、大和が求める道路の新設・改修、産業振興、学校施設の改善などは後回しになりました。税の不公平に不満を抱く大和の人々は、奈良県復活を求める声をあげました。
奈良県再設置を求める運動「分置県請願」
明治14(1881)年12月、旧奈良県出身の大阪府議会議員、今村勤三(いまむらきんぞう)や恒岡直史(つねおかなおふみ)らは奈良県再設置を求める「分置県請願(ぶんちけんけいがん)」と呼ばれる運動を起こしました。
自由民権運動が盛んだった当時、運動は農民らの地租軽減要求と結びついて大いに盛り上がりました。明治16(1883)年8月、866町村から2万人以上の署名が集まり、議員らは何度も上京し奈良県再配置を請願しました。
しかし、政府からは回答を得ることはできず、運動は次第に沈滞しました。
奈良県再設置の立役者・今村勤三
今村勤三(1852~1924)は、大阪府から奈良県を独立させ再設置へと導いた中心的人物。再設置後の初代奈良県議会議長を務め、明治23(1890)年、第1回衆議院選挙に当選し国会議員を務めました。
明治21(1888)年には、奈良県初の日刊紙『養徳(やまと)新聞』を創刊し、郡山紡績の社長や現在のJR奈良線、桜井線の奈良駅~桜井駅を付設した奈良鉄道の社長を務めるなど産業振興にも貢献しました。
今村勤三や、息子で大阪帝国大学(現在の大阪大学)第5代総長・文化功労者の今村荒男(あらお)(1887~1967)の生家は、安堵町の安堵町歴史民俗資料館として保存・公開されています。
奈良県再設置が伊藤博文首相に認められる
転機が訪れたのは明治20(1887)年。大阪府下の摂津・河内・和泉で地価改正が実現されるのに対し、県内の農民らから地租軽減要求の機運が高まり、恒岡直史らは奈良県再設置と地租軽減請願、2つの要望を携え、上京しました。
地租軽減請願は認められませんでしたが、同年10月には、地方税配分の不均衡解消を最大の理由として伊藤博文首相は奈良県再設置を約束しました。
奈良県民の悲願の「奈良県再設置」は紆余曲折しながら実現
明治20(1887)年11月、ついに奈良県再設置の勅令が出され、県庁所在地は奈良に、管轄範囲は大和一円となりました。初代知事には、薩摩藩出身で元老院議官や堺県知事を歴任した税所篤(さいしょあつし)が就任しました。
知事を出迎えるため多くの県民が大阪府国分村まで赴き、知事が乗る人力車に長い列をなして随伴したといいます。県民の悲願の「奈良県再設置」は、紆余曲折しながら実現しました。
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Part.2 奈良を駆ける交通網
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・営業期間わずか9年間! 大仏鉄道を阻んだ急勾配
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・大化の改新だけではない! 中大兄皇子が変えた時間の概念
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<コラム>
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