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吉野の花見で豊臣秀吉が催した総勢約5000人の大宴会

文禄3(1594)年、秀吉は公家、武将、茶人、連歌師など総勢約5000人を伴い吉野へ花見に出かけました。吉水院(きっすいいん)(吉水神社)に本陣を置き5日間にわたり歌会、茶会、能の会が開かれました。初めの3日間は雨が止まず、秀吉が「雨が止まねば山に火をかけて下山する」と怒ったため、僧侶たちが慌てて晴天祈願をしたところ翌日雨が止み、無事に盛大な花見が行われたといいます。

花見では、徳川家康らそうそうたる武将が茶屋を建て、身分が低い者に仮装して楽しむ次のような場面もありました。

吉野の花見における豊臣秀吉と伊達政宗の仮装芝居

伊達政宗とその家臣は、檜笠に鈴懸の衣を着け金剛杖を持ち、大峰山の山伏に仮装していました。茶屋では徳川家康、前田利家、今出川晴季(いまでがわはるすえ)ら、公家や武家の面々が休憩中。政宗一行が「さて、どの茶店に入ろうか」と一軒の茶屋の前を通り過ぎようとしたころ、「客の僧よ、お立ち寄り下さい。お茶はお代次第。お望みの物をお出ししますよ」と茶屋の下男を語る秀吉がうちわと床机(しょうぎ)を持って招きました。

これに対して政宗も芝居に乗る形で「山を駆けて来たので足が疲れ、休もうとしておった。茶より酒をいただきたい」と返し、お供の者に「法螺貝を吹け」と命じました。政宗の家臣は腰に下げていた法螺貝を2、3度吹きならし、「斎料(仏事のお膳料)を所望する!」とさらに調子を合わせました。秀吉をはじめ近くで見ていた家康、晴季らは腹を抱えて大爆笑したといいます。

豊臣秀吉は伊達政宗の仮装芝居に大喜び!

茶屋なのに酒を所望し、その上適当に法螺貝を吹いただけで布施を要求する巷のニセ山伏よろしく演じた政宗らの芝居を想像するだけでもおもしろいものです。

このひと幕に秀吉は、「今日の花見で扮装が見事だったのはわしとおぬしだけじゃ。数寄者天下一は決まったな」と高笑いをして政宗に言ったといいます。

吉野の花見は無礼講!

今でいえば戦国コスプレパーティーとでも呼べそうな盛大な吉野の花見。茶人や女中方も茶屋の者に扮し、身分上下の隔たりなく楽しみました。「桜の下では無礼講」という宴会法がすでにこの時代からあったのかもしれません。

神木化された吉野山の桜

吉野の桜は約1300年前、修験道の開祖・役行者がここ吉野の山上ヶ岳で感得した蔵王大権現を山桜の木に刻んだことから御神木として崇められたと伝えられています。御神木なので切ることはおろか枯れ木や枯葉も薪にせず、一枝を折ることすら禁じ保護しました。蔵王大権現を本尊とする金峯山寺の信仰が広まるとふもとで苗木を買い献木することが盛んになりました。

現在はシロヤマザクラを中心に約200種3万本の桜が、見頃の時期にふもとから中千本、上千本、奥千本と山頂に向かって順次開花し、「日本一の桜の名所」として知られます。単なる花見のためではなく信仰の桜として今も大切にされています。

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・大化の改新だけではない! 中大兄皇子が変えた時間の概念
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<コラム>
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