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藤原京と平城京を比較して分かる遷都の理由
では一体なぜ遷都されることになったのでしょうか。
その契機となったのは、大宝2(702)年、30年以上ぶりに再開した遣唐使による報告でした。中国の理念をもとに造った藤原京は、当時最先端だった唐の長安とは全く異なっていたということが分かったのです。藤原京の造営は遣唐使が中断していた時期と重なり、最新の都城について知ることができませんでした。藤原京と、その後遷都された平城京の構造を比較すると違いが見えてきます。
平城京のモデルは唐の長安!その構造とは
長安をモデルにした平城京は、都の北に平城宮が置かれていました。都を南北に貫く朱雀大路(すざくおおじ)は、長さ約3.8km、幅約74m。平城京のメインストリートであるだけでなく、儀礼を行い朝廷の威信を示す場でもありました。南の羅城門から平城宮の正門である朱雀門まで上りになっており、その先に大極殿がそびえる構造になっていました。
朱雀門
藤原京の構造や立地は難点だらけだった
これに対して藤原京の朱雀大路は長さ約500mと短く、道幅は約24mでほかの条坊道とあまり変わらないため、平城京のような役割を担うには不十分と考えられます。
また藤原京は北が低くなっており、中央にある藤原宮は南側の臣下の建物から見下ろされる形になっていて、威厳が損われていたのも大きかったでしょう。低地だったため大内裏に汚水が流れ込むこともあり、衛生状態も良くなかったようです。
このような立地的な欠点も、遷都の理由のひとつとして考えられています。いずれにせよ、これでは難点だらけで朝廷の威信を示すことは難しいでしょう。
遣唐使によって唐の実情を知った朝廷は、真の律令国家にふさわしい高度な都にするために、早々に藤原京を捨てて新しい都を造ろうとしたと推測されます。
藤原京・平城京の現在と当時の構造
藤原京から平城京へは約19km。かつては右図の破線部分が藤原京の全域とされていました。しかし現在は、大和三山を内包し平城京より規模が大きい、いわゆる「大藤原京」説が有力となっています。
藤原京から平城京に遷都された理由は諸説ある
平城京遷都には、藤原不比等(ふじわらのふひと)が権力を掌握するために飛鳥の豪族から離れて、新たな地盤を固めたいという思惑があったという説もあります。遷都の理由は諸説あり、複数の要因が絡み合ってなされたのでしょうが、藤原京を造る手本となった『周礼』という参考資料の存在は、伏線として無視できないと考えられます。
平城京の役人たちの暮らし
大内裏で働く役人の出勤は早く、朝6時半。太鼓の音で朱雀門が開門。朝堂院の各省庁で5時間程度実務をこなし、正午には退勤しました。
給与は位階や官職により異なります。正一位(しょういちい)~正三位の貴族は位田(いでん)と呼ばれる水田や位封(いふう)(農民が納める税など)が与えられ、春と秋には季禄(きろく)として絁(あしぎぬ)や綿も支給されました。一方、六位以下は季禄のみで出勤日数に応じて米や魚などの月料が支給されたといいます。給与が低いと、退勤後に東大寺でアルバイトをする者もいたことが『正倉院文書』に記されています。
勤務評定があり、毎年上・中・下の 3段階で評価。 6年ごとに平均値が出され、中以上だと翌年には官位が上がります。
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