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壬申の乱当時の官道・大和三道とは
『日本書紀』によると、壬申の乱当時、奈良盆地には東西道として横大路、南北道として上ツ道(かみつみち)、中ツ道(なかつみち)、下ツ道(しもつみち)が官道として整備されていました。奈良盆地を南北に走る上ツ道、中ツ道、下ツ道は大和三道とも呼ばれ、壬申の乱で大きな役割を果たしました。
最も東側の上ツ道は桜井市から奈良盆地の東側の山沿いを北上し天理市まで。中ツ道は橿原市の天野香具山(あまのかぐやま)北麓から奈良市北之庄町辺りまで。下ツ道は橿原市の丸山(まるやま)古墳から平城京の朱雀大路(すざくおおじ)、奈良市最北端の歌姫越へつながっていました。
それぞれの道の間隔は約2.1km。下ツ道では巨大な側溝が見つかっており、道路の規模は幅34.5m(路面幅は約18m)と広いものでした。側溝は運河として利用されていたと考えられています。
壬申の乱の大和における戦いと大和三道
『日本書紀』で大伴吹負の動きを中心に大和における壬申の乱の戦いを追ってみましょう。
同年6月29日、大伴吹負は少ない兵力ながら飛鳥寺の西にあった大友軍の軍営に奇襲をかけて制圧。7月1日、敵の本陣がある近江の大津京を目指して乃楽(なら)山に向かいました。飛鳥京から下ツ道を北上し、稗田(ひえだ)に到着したところで河内から大友方の大軍が来襲しているとの情報が入り、兵力を竜田・大坂・石手道(いわてのみち)の3方向へ割きました。
乃楽山の戦いと飛鳥京での奇策
7月3日、乃楽山に駐屯した大伴吹負は荒田尾赤麻呂(あらたおのあかまろ)の進言で赤麻呂らを飛鳥京の防衛に向かわせます。赤麻呂は飛鳥京の橋の板を壊して楯として街角に立てる奇策を取りました。
翌4日、兵力の劣る吹負軍は南下してきた大友軍と乃楽山で戦ったものの大敗。宇陀方面に逃走しました。一方、大伴吹負を破った大友方の大野果安(おおののはたやす)らは一気呵成に中ツ道を南下。飛鳥京手前の八口に到着し、天香具山から飛鳥京を見て、前日に並べられた楯を伏兵がいると勘違いして引き返すという失態を犯してしまいます。
大和三道に兵力を配置!大伴吹負ら大海人軍が勝利を収める
敗走した大伴吹負は、その後墨坂で置始菟(おきそめのうさぎ)率いる援軍と出会い、西へ戻って金綱井(かなづなのい)に本営を置きました。そして7月7日から8日あたりに紀阿閉麻呂(きのあへまろ)率いる援軍の本隊が到着。大伴吹負はこれを上ツ道、中ツ道、下ツ道の大和三道に分けて配置し、みずからは中ツ道を守りました。続々と南下してくる大友方の大軍を迎え撃つためです。
上ツ道を守る三輪高市麻呂(みわのたけちまろ)と置始菟の軍は箸陵(箸墓)の戦闘に勝利。中ツ道では吹負らが、村屋社に本陣を置く大友方の将軍・犬養五十君(いぬかいのいきみ)らと戦いますが、劣勢を強いられます。しかし箸陵の戦いに勝った置始菟が中ツ道にかけつけたことで、形成は逆転します。
激戦の末、大海人軍が見事に勝利を収めました。以来、大友軍は大和を襲うことはありませんでした。
大伴吹負らの大和三道での戦い
『日本書紀』によると、壬申の乱のときにはすでに道路網が整備され、戦いの舞台となっていたことが分かります。
壬申の乱の貴重な移動ルートだった大和三道
壬申の乱のときにはすでに縦横に幹線道路が通り、戦においても貴重な移動ルートでした。勝利した大海人皇子は天武天皇として即位。
大津京から飛鳥浄御原宮(きよみはらのみや)に都を遷し、日本は律令国家への道を歩み始めます。
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Part.2 奈良を駆ける交通網
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