吉野川分水計画の立案とたち消え
一方で、大和平野の山を隔てた南にある吉野川には、豊富な水が流れていました。そこで元禄年間（1688～1704年）に、名柄村（ながらむら：現在の御所市）の庄屋だった高橋佐助が、吉野川の分水を大和平野に引くことを考えつきましたが、計画止まりになりました。
江戸時代の終わり頃にも吉野川分水の計画が持ち上がりましたが、吉野川下流の紀の川が流れる紀州藩（現在の和歌山県）が反対し、実現しませんでした。上流で吉野川の水を使われると、下流の紀の川の水が減ると考えられたためです。
明治以降も、何度も計画が持ち上がりましたが、そのたびに和歌山県側の反対にあい、たち消えになりました。
吉野川分水計画がついに実現へ
しかし、第二次世界大戦後、人口増加に伴って食料の増産が必要になったことから、全国各地で国の復興計画が始まり、その１つとして昭和22（1947）年、「十津川・紀の川総合開発計画案」が出されました。
この計画は和歌山県の用水不足も解決しようとするものだったので、奈良と和歌山の協議がまとまり、昭和25（1950）年、「十津川・紀の川総合開発事業」が、正式に調印されました。
工事は昭和27（1952）年に始まり、昭和62（1987）年まで行われました。
吉野川分水事業の内容
この事業では、大和平野と和歌山の紀伊平野の農業用水を補給するため、紀の川水系に「大迫ダム」「津風呂（つぶろ）ダム」および「山田ダム」（和歌山県）、十津川水系に「猿谷ダム」が建設されたほか、吉野川分水のためのさまざまな施設が造られました。
大和平野に流される吉野川分水は、大迫ダム、津風呂ダムから流された水を大淀町の「下渕頭首工（しもぶちとうしゅこう）」で取水し、水路トンネルを通って、御所市の「東西分水工」まで送り、東西に分岐させます。水はここで東西の「幹線水路」を通り、大和平野全体の田園を潤します。
吉野川分水の実現とその恩恵
西部の幹線水路の末端には、円形型の「円形分水工」とういう特徴的な施設があります。円形の中心からあふれた水を内部に取り付けられた仕切りによって必要な水量に仕分け、各水路に流す役割を担っています。
なお、分水された水の一部は生活用水としても利用されているほか、地域の防災や河川の水質改善などにも役立っています。
発案から300年を経てようやく実現された吉野川分水計画は、大和平野に数々の恩恵を与えているのです。
吉野川分水の位置関係
東西の幹線水路からそれぞれ網の目のような水路を通じて、大和平野のすみずみまで水を供給しています。
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