大和三山が詠まれた歌
その景観の美しさもあり、大和三山は古くから数々の歌に詠まれてきました。例えば『万葉集』には、中大兄皇子(なかのおおえのおうじ)が詠んだ以下の歌が残されています。
「香具山は 畝火ををしと 耳梨と 相あらそひき 神代より 斯くにあるらし 古昔も 然にあれこそ うつせみも 妻を あらそふらしき(巻一 一三)」。
訳すと「香具山は畝傍山を男らしい者として、恋仲の耳成山と争った。神代からそうであるらしい。昔もそうであるからこそ、現世も愛する者を争うのだろう」という意味です。
大和三山に囲まれた平野部に、持統8(694)年、日本で初めての本格的な条坊制の都とされる藤原宮(ふじわらきゅう)が造営されたのも、当時の人々にとってこの地域が特別な場所だったことを推測させます。
大和三山は人工的に造られた?
そんな大和三山について、「実は人工的に造られた山なのではないか」という説が囁(ささや)かれています。
その理由は、まず大和三山の位置関係にあります。大和三山の山頂同士を直線で結ぶと、畝傍山を頂点とするほぼ完璧な二等辺三角形ができあがるのです。
大和三山と周辺の山の位置関係
畝傍山の山頂から耳成山の山頂までの距離と天香具山の山頂までの距離は、ともに約3km。各山の山頂と冬至線を結ぶと、三輪山から南西に向けて矢が放たれた形のように見えます。
大和三山の位置関係についての諸説
次に、畝傍山はその南西にある葛城山と、同じく北東にある三輪山を結んだ線上にあり、これが冬至線(冬至の日に太陽がこの線の真上を通る)と一致しています。この線の左右両側のほぼ等距離に、耳成山と天香具山が存在します。偶然にしては意図的な形のように見え、暦や祭祀に利用するために、このような位置に山を配置したのではと思わせます。
また冬至線に沿わせるように、畝傍山や三輪山の形を整えたとする説もあります。古代より太陽を崇めていた信仰心から、1年のうち日照時間が最も短くなる冬至の日に、その力を補うため何らかの神事が行われていたのでしょうか。
大和三山に感じる古代ロマン
また、天香具山は『日本書紀』の神代から、畝傍山は初代神武天皇の時代からそれぞれ記述があるのに対し、耳成山は19代允恭(いんぎょう)天皇の時代まで記述が見つからないとされます。このことからも、耳成山はもともと存在せず、4~6世紀までに人工的に造営されたのではないかという疑問がわきます。
もし本当に大和三山が人工の山々だとしたら、古代の奈良には想像をはるかに上回るレベルの測量や土木の技術があったことになります。現時点では学術的な根拠に乏しく、あくまで推測の域を出ないようですが、古代ロマンを感じさせる話です。
香具山に「天」の称号が付く理由
大和三山のなかで香具山だけに「天」の称号が付いて、特別視されています。
『伊予国風土記』によると、天上世界に「香具山」という山が存在し、その山が地上界に降りてきたのが今の天香具山なのだといいます。香具山は他の2つの山より由緒正しく、格式が高いことを示すために、「天」を冠するようになったとのことです。
ちなみに、天上世界の香具山は地上に降りるときに2つに分かれ、もう1つの山は伊予国(現在の愛媛県)の「天山」になったといいます。
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Part.2 奈良を駆ける交通網
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